地域や階級の差が生んだ多様性。「イギリス英語」は知れば知るほど面白い【後編】

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さて、前編記事ではアメリカ英語と対比する形でイギリス英語の特徴をごく大雑把に確認してきました。しかしながら、イギリスで使われている英語を「イギリス英語」と呼ぶとすれば、実はその中身は多様で、使う際にも注意が必要です。

「イギリス英語」の地域差、階級差

そもそも、前編記事の冒頭では「イギリス」という言葉を大ざっぱに用いましたが、これを定義するところから厄介です。イギリスは国家単位で考えると「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」であり、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国から成り立っている「連合王国(United Kingdom)」です。現在ではこの地域の人々の95%近くが母語として英語を話していますが、その英語は互いに異なります。特に発音の違いは大きく、同じ「イギリス」の中でも意思の疎通が難しいということは珍しくありません。

それもそのはずで、日本語の「イギリス」は「イングランド」を表すポルトガル語やオランダ語が由来であり、実際、英語の発祥の地はイングランドでした。ウェールズ、スコットランド、北アイルランドにはそれぞれ独自の言語があり、今もそれらの独自言語を話す人が(少ない割合ながら)存在するだけでなく、街中の標識ではそれぞれの言語を目にすることができます。もともと「英語」は「イングランドの地方言語」であった、と考えればイギリス全土で話されている言葉に違いがあるのは当然と言えます。

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では、イングランドの英語が単一の「イギリス英語」なのかというと、それも簡単には言えません。北東のニューカッスル周辺で話されている英語と、南東のコーンウォール地方で話されているものとではやはり大きく違います。

地域差だけではありません。イギリスが階級社会だということはよく言われますが、この階級差が英語にも大きく反映されています。アメリカの英語にも、そして日本語にも地域差や社会階層の違いは表れますが、イギリス人ほど階級を表す「記号」として各々の言語の違いに敏感な人々はいないかもしれません。

標準語に当たる「RP」、ロンドンの下町英語、「コックニー」とは?

もちろん、このようなイギリス国内で標準的な英語を定めようという試みはありました。

その代表に当たるものがRP(Received Pronunciation、容認発音)と呼ばれるもので、上述の「クイーンズ・イングリッシュ」に当たるものです。これは、高等教育を受けたイングランド南部の上流階級の発音に基づくものとして、1910〜20年代に規範化されました。一般に外国人が「イギリス英語」の発音として学習するのはRPです。公共放送のBBCでもRPが使われていました。

他方でコックニーと呼ばれる英語があり、これは首都ロンドンの労働者階級が用いる、いわば下町の英語と言えます。その発音はRPとはかなり異なるもので、たとえば、dayが「ダイ」のように、bikeが「ボイク」のように聞こえるなどの特徴があります。さらに、発音だけでなく、独自の言い回しも非常に多くあります。

有名なところで言うと、believe(ビリーヴ/信じる)がAdam and Eve(アダム・アンド・イヴ/アダムとイヴ)になったり、stairs(ステアーズ/階段)がapples and pears(アップルズ・アンド・ペーアズ/リンゴと梨)になったりと、同じ韻を持つ単語を文中で代用する「コックニー・ライム」

I can’t Adam and Eve that!(=I can’t believe that!)
信じられない!
Let’s go up the apples and pears.(=Let’s go up the stairs.)
階段を上がろう。

初めて聞いた人は耳を疑うかもしれませんが、いかにも下町言葉らしい、遊び心が込められた言い回しですよね。

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RPは上流階級と関連付けられるため、ややお高くとまった、とっつきにくいといったマイナスのイメージを持たれることも少なくありません。そうした理由もあり、RPの「標準語」としての地位は相対的に低下しつつあります。

そこで生まれてきたのが河口域英語(Estuary English)と呼ばれるもので、これはいわばRPとコックニーとの間を取るような形のものです。「河口」とはテムズ川の河口を指し、ロンドンなどイングランド南東部で話されている英語のことになります。これはRPほどとっつきにくい印象がなく、コックニーほど俗っぽくないということで標準的な英語として受け入れられるようになっていきます。

比較的新しい例では、1997年から10年間イギリスの首相を務めたトニー・ブレアの英語がこれに近い特徴を持っていました。前半で説明した発音の特徴も河口域英語に属するものです。逆に、今年7月に行われた直接投票までキャメロン首相のもとで財務大臣をつとめたジョージ・オズボーンは、普段はRPを話すにもかかわらず若者や労働者階級の前でコックニーに近い発音をまねたことでmockney=mock「まがい物の」cockney「コックニー」と批判されました。いかに社会集団と話す英語とが深く関連付けられているかの好例です。

ひとつだけの英語なんてない

英語は世界に大きく広がっています。そしてそこで使われている英語は、イギリス英語、アメリカ英語以外にも実にさまざまです。本記事で詳しくは扱えませんが、このような英語の広がりにはイギリスからの移民の歴史、イギリス帝国拡大の歴史という背景があります。そして現在ではイギリスへの移民も多く根付き、イギリス国内で話されている英語には地域、階級だけでなく民族による多様性も生まれています。

つまりイギリス英語の多様性というものは、そもそも多様な文化を内包している現在の英語の状況を鏡映しにしているとも言えるのです。「グローバル化」する世界で英語を使ううえで、その多様性を意識することは今や欠かせない能力のひとつとなっていますが、イギリスの英語がいかに使われているか、どのように展開してきたかを知ることが、そのまま多様化する世の中の動向への対応力にもつながってくるのではないでしょうか。

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