日本語の「適当」という言葉は一見シンプルですが、実は文脈によって正反対の意味になる非常にユニークな言葉です。たとえば、状況によって「ちょうど良い」「ふさわしい」といったポジティブな意味にもなれば、「いい加減」「雑」といったネガティブな意味にもなります。さらに、「だいたい」「おおよそ」と数量的なニュアンスでも使われることがありますよね。
英語ではこのような多義性を持つ「適当」をひとつの単語で表せないため、文脈に合わせて複数の表現を使い分ける必要があるのです。
この記事では、「適当」の意味を4つに分け、それぞれに対応する英語表現と使い方をわかりやすく解説します。
「ちょうど良い」「適切な」― Positiveな「適当」
このタイプの「適当」は、物事が状況や目的に対してちょうど良く合っている状態を指します。ビジネス・日常どちらでもよく使われるので、それぞれの意味とニュアンスの違いを見ていきましょう。
appropriate(適切な・ふさわしい)
最も一般的でフォーマルな表現。行動・言葉・服装などが社会的・状況的にふさわしいことを意味し、ビジネス、教育、日常のどの文脈でも通用し、少しかしこまった響きを持ちます。
Please come in appropriate attire for the meeting. (会議には適当な服装で来てください)
It’s not appropriate to use slang in a business setting. (ビジネスの場でスラングを使うのは適切ではありません)
attireは「服装」という意味で、特定の場面などに適した服装のこと。一方、よく知られたclothesは、日常的な服装全般のことです。
ポイント:「appropriate」はビジネス文書・プレゼンなどで最も無難に使える語。人の行動・言葉の“マナー面での適切さ”を表します。
suitable(条件・用途に合っている・ぴったり)
条件や目的との適合性を強調します。これは practical(実用的)や、appropriate(状況に合った)というニュアンスに近く、物・条件・状況に対して使うことが多いです。「社会的に正しい」というよりは「機能的に合っている」というイメージで、客観的な基準で判断する際に便利です。
appropriateが「社会的に正しい」なら、suitableは「機能的に合っている」イメージ。
This room is suitable for studying. (この部屋は勉強するのに適当です)
This movie is not suitable for children. (この映画は子どもには向いていません)
ポイント:suitableは「合っている」感覚を重視。客観的な基準で判断する際に便利です。また、後述の「ふさわしい」「妥当な」というフォーマルな文脈でも使われます。
proper(正式な・きちんとした)
「きちんとした」「常識的な」という日本語に近く、礼儀や形式面における「正しさ」「品の良さ」を表します。
You should wear proper shoes for hiking. (ハイキングには適切な靴を履くべきです)
It’s not proper to speak loudly in public. (公共の場で大声を出すのは行儀がよくありません)
ポイント:「きちんとしている」印象を与える語。イギリス英語で特によく使われますが、アメリカ英語では少し古風に感じられることも。
adequate(十分な・必要を満たす)
「基準や必要量を満たしているが、それ以上ではない」という意味。ポジティブでもネガティブでもなく、「足りてはいる」というニュアンス。“just enough(必要最低限)”という感覚です。「完璧」ではなく「不十分でもない」。ビジネスレポートなどで「基準を満たしている」と表現したいときに便利。
The lighting in this room is adequate for reading. (この部屋の明るさは読書に適しています)
We have an adequate number of staff for today. (今日は十分なスタッフがいます)
ポイント: 「最低限はOK」という控えめな評価。ポジティブにもネガティブにも使えます。
reasonable(妥当な・常識的な)
「論理的に妥当」「常識的」「価格が手頃」といった幅広い意味で使われる便利な単語。「ほどよく正しい」「過剰でない」というイメージを持つと理解しやすいかもしれません。
The price is reasonable for such high quality. (この品質なら価格は妥当です)
It’s reasonable to expect a delay due to the storm. (嵐のため遅れを予想するのは妥当です)
ポイント:「reasonable」は「理にかなっている」という意味合いが強く、議論・判断・価格などに使われます。「適度な」「控えめな」印象を与えたいときに便利。
「ふさわしい」「妥当な」― formalで客観的な「適当」
このグループの表現は「条件に合う」「正当である」という客観的な判断を表し、ビジネス・学術的な文脈でよく使われます。
suitable(適している)
「ちょうど良い」「適切な」のセクションでも触れた「suitable」は、目的・条件・人物などに対する「合致」を表す際にも用いられます。特に、状況だけでなく「人物・地位・目的」に合っているかを表すときに使い、フォーマルな印象を与えます。
He’s not suitable for the position. (彼はそのポジションにふさわしくありません)
This venue is suitable for a formal ceremony. (この会場は正式な式典にふさわしいです)
ポイント:状況だけでなく、「人物・地位・目的」に合っているかを表すときに使い、フォーマルな印象を与えます。
fitting(ぴったりの・ふさわしい)
感覚的・印象的な「調和」や「一致」を表現します。やや文語的。
It was a fitting end to the story. (それは物語にふさわしい結末でした)
He is fitting for that role. (彼はその役割に適しています)
ポイント:「雰囲気・場面・人柄」に自然に合っているという感覚。文学的・感情的に使われることも多いです。
acceptable(受け入れられる・妥当な)
最低限の基準を満たしていて「問題がない」という評価を表します。
Your performance was acceptable, but it could be improved. (あなたのパフォーマンスは許容範囲だが、改善の余地がありますね)
That excuse is not acceptable. (その言い訳は通用しません)
ポイント:社会的・倫理的に「許容できる」範囲にあるかを示します。「ふさわしい」というより、「問題ないレベル」というニュアンス。
relevant(関連のある・適切な)
情報や話題が「関係している」ことを表します。日本語の「適当な説明」などに近いニュアンス。
Please include only relevant information in your report. (報告書には関係する情報だけを含めてください)
His comment was not relevant to the discussion. (彼の発言は議論と関係がありませんでした)
ポイント:「話題や目的に関係があるか」という意味での「妥当さ」。論理的な文脈で使うことが多いです。
「いい加減な」「無責任な」― negativeな「適当」
このタイプは「てきとうにやる」「てきとうなことを言う」など、ネガティブな意味で使われる「適当」です。英語では語彙の選び方で“怠慢の度合い”を表現できます。
careless(不注意な)
ミスをするほど注意が足りない状態。
He always gives careless answers. (彼は適当な返事ばかりします)
Don’t be so careless with important data! (重要なデータをそんなにぞんざいに扱うなよ!)
ポイント:注意不足・うっかりによるミスや行動に焦点。意図的ではない「ずさんさ」を表します。
irresponsible(無責任な)
「責任がある」という意味のresponsibleに否定の意味を持つ接頭辞「ir-」がついたirresponsibleは、責任を放棄する、義務感の欠如を表します。
It was irresponsible of him to ignore the deadline. (締め切りを無視するなんて、彼は無責任でした)
Such irresponsible behavior affects the whole team. (そのような無責任な行動はチーム全体に影響を及ぼします)
ポイント:義務・責任を果たさないこと。社会的・道徳的に「無責任」な印象を与えます。
sloppy(雑な・だらしない)
注意不足や怠慢による「ずさんさ」を表す口語表現。
I did my homework in a sloppy way. (宿題を適当にやりました)
His handwriting is really sloppy. (彼の字は本当に雑でした)
ポイント:外見・仕事ぶり・文体などが「雑」「丁寧さに欠ける」こと。日常的でややカジュアル。
random(行き当たりばったりの)
英語のrandomは、「無作為の」「規則性のない」「行き当たりばったりの」という意味で、文脈によっては「いい加減」「計画性がない」という否定的なニュアンスになることがあります。一方、日本語の「ランダム」は、単に「順番や規則がない」「バラバラな」という中立的な意味で使われることが多く、英語のようなネガティブな印象はあまりありません。ここでは、「計画性がなく、行き当たりばったりの」という意味。
He gave a random answer without thinking. (彼は考えずに適当な答えを言いました)
She picked a random topic for her essay. (彼女は作文のテーマを適当に選びました)
ポイント:「無作為」「予測不能」という意味から転じて、「脈絡がない」「考えなし」という否定的な印象になることも。中立的にもネガティブにも使われます。
haphazard(でたらめな・計画性のない)
randomよりもさらにネガティブで、「無秩序」「行き当たりばったり」感を強調します。
The project was planned in a haphazard way. (そのプロジェクトは行き当たりばったりに計画されました)
Don’t study in a haphazard manner! (勉強を適当にしないで!)
ポイント: 体系性や秩序がまったくない様子を強調。学術的・形式的な文脈でよく使われます。
「だいたい」「おおよそ」― neutralで口語的な「適当」
最後のグループは数量・程度を“おおよそ”で表す場合の「適当」。ポジティブでもネガティブでもなく、中立的な意味です。
roughly(おおよそ・大雑把に)
厳密でないが十分伝わる程度の概算。
There are roughly 200 people in the hall.(会場にはおおよそ200人います)
Cut the vegetables roughly into pieces. (野菜を適当に切ってください)
ポイント:感覚的で少しラフな「おおよそ」。口語でも書き言葉でも使えますが、やや硬めの印象もあります。
about(およそ・~くらい)
最も一般的な「だいたい」の表現。カジュアルで会話的。
We waited for about an hour. (およそ1時間待ちました)
It costs about 10 dollars. (およそ10ドルかかります)
ポイント:日常会話で最もよく使われる「~くらい」。数量・時間・金額に幅広く使える万能表現です。
approximately(概算で・ほぼ)
aboutよりもフォーマルで、ビジネスや学術用途でよく使われます。
The flight takes approximately two hours. (その便はおよそ2時間かかります)
The population of the city is approximately 2 million. (市の人口はおおよそ200万人です)
ポイント:フォーマルで正確さを意識した言い方。報告書・学術文・ビジネス文書で多用されます。
around(~くらい・おおよそ)
aboutとほぼ同義ですが、口語的で柔らかい印象を与えます。
There were around 50 people in the room. (部屋にはおよそ50人いました)
Let’s meet around 7 p.m. (7時ごろに会いましょう)
ポイント:aboutよりもくだけた印象で、範囲をぼんやり示します。口語では非常に自然。
意味別に「適当」を英語で使い分けよう!
英語で表現する際は、「positive/negative/neutral」のどれかを見極めることがポイント。また、文脈を正しく読み取れば、「てきとうに訳す」英語から卒業できるはずです!
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