【前編】TOEIC(R)を使って英語トレーニングを「見える化」し、TOEICの壁を超えていこう /千田潤一さん

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「TOEICの伝道師」であり、著書「英会話ぜったい音読」などを通じ「英語トレーニング」という概念を日本に普及させた千田潤一さんに、TOEIC誕生と日本人の英語学習の軌跡、またTOEICを活用した英語トレーニングの秘訣をお話しいただきました。

「英語難民の救済」がミッション

TOEICとの出会い

Q:これまでの講演活動についてお聞かせください。

私が英語トレーニングを普及する講演を始めたのは、1990年のことです。この25年間に行った講演やセミナー等の合計回数は4,800回を突破、受講者の数は20万人を超えています。講演や執筆活動の傍ら、2000年に那須高原に「英語難民救済センター」という施設を開き、一泊二日の合宿を行っています。こちらへの参加者の数も1,000人を超えました。

私のミッションは「英語難民の救済」、その方法が「英語トレーニング」です。今このインタビューをご覧になっている皆さんには、「英語トレーニング」という言葉を使ってもさほど違和感を持たないのではないかと思いますが、私が講演活動を開始した1990年当時、英語はまだ「勉強」するものでした。私は講演活動を通じて「英語はスポーツや楽器の演奏と同じ実技科目だ!」「英語の勉強はやめよう。英語のトレーニングを始めよう」と提唱してきました。この活動によって「勉強しても英語を使えるようにはならない」「英語のトレーニングを行うことで英語は使えるようになる」という考え方は、企業研修や学校教育の現場にも広がり、英語に対するアプローチは大きく進化したことを実感しています。

Q:「英語トレーニング」の講演を始めたきっかけを教えてください。

英語トレーニングを始めたきっかけ

1990年に、日本でTOEICを普及する国際コミュニケーションズに入社する前は、タイムやAIUという外資系企業で働いていました。私がTOEICを活用して英語トレーニングの普及に生涯をかけて取り組むきっかけとなったのは、TOEIC発案者である北岡靖男さんとの出会いです。当時Time Inc.のアジア総支配人であった北岡さんは、「日本人は英語が自由に使えるようになって、はじめてグローバルビジネスで活躍できる。効果的な教育システムが必要だ。その前に教育効果を測定する客観的な評価システムが必要だ」と考えました。そして、そのアイデアを世界最大の非営利テスト開発機関でありTOEFLを開発、実施していたETS(Educational Testing Service)に持ち込んだのです。そして、完成した「TOEIC」の普及活動を一緒にやらないかと北岡さんから何度も誘っていただき、この道に入ることになりました。

英語難民救済の取り組み

Q:どのように「英語トレーニング」の普及をされてきたのですか。

先にお話ししたとおり、私がこの活動を始めた当初、英語は「勉強」するものであって、「トレーニング」するものであるという考えはほとんど普及していませんでした。
大学では、まだ「英文学」が主流で「ビジネス英語」や「時事英語」という「実需の英語」は、どちらかというと「軽い」と卑下され、主流ではなかったように思います。
しかし、1990年代に入りグローバル化がどんどん加速していく中、「和訳」や「英作文」というスタイルで英語に触れてきたビジネスパーソンは、海外とのビジネスにおいて困難の極みに直面していました。スピードが命のグローバルビジネスにおいて、「英文和訳」や「和文英訳」をしていたのでは、円滑なコミュニケーションができなかったからです。インターネットが普及してきてからは、ビジネスコミュニケーションの高速化がさらに進み、訳しているうちにライバルにビジネス機会を奪われてしまうという時代になってきました。

実技科目である英語のトレーニングを全く行ったことがない状態で英語が使えないのは、冷静に考えれば当たり前のことです。私は英語トレーニングをスポーツや楽器の演奏に例えますが、テニスのルールブックと教則本を書籍で読んだだけで、実際にラケットを持ったこともボールを打ったこともない人がいきなりコートに立っても、試合ができるわけがありません。これは「知識」の問題ではありません。「訓練」の問題です。この状況を打破するために、私は「英語トレーニング」という言葉を使い始め、企業の英語研修や一般の方々に向けて伝道する活動を始めたのです。

Q:「英語難民」とは悲壮感がただよいますね。

「英語難民」という言葉も私が使い始めた造語です。30年以上前に、同時通訳者の松本道弘先生が主宰する「デルファイ会」という会で、英語が使えなくてグローバルビジネスの現場で困っている人たちの話題になりました。「そういう人たちをどう呼びますか?ボートピープルみたいだよね。そうだ“英語難民”と呼びましょう!」という話になりました。私は「English Language Refugees」と訳しました。英語という実技を学ぶ機会がないままグローバルビジネスの大海に放り出された当時の日本人ビジネスパーソンは、まさに「英語難民」化していました。その救済をミッションにしようと、講演や研修活動を始め今に至ります。

新たな「TOEIC難民」の出現

TOEICスコア万能主義がもたらしたもの

Q:TOEICスコアは今では就職活動や昇進・昇格に幅広く使われていますが、当初はどのような状況だったのですか。

TOEIC難民の出現

TOEICが始まったのは1979年ですが、最初の10年ほどは受験者も少なく、知っている人はほとんどいませんでした。
TOEICは、「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能のうちの2技能のテストとしてスタートしました。「聞く」能力から「話す」能力を、「読む」能力から「書く」能力は推測できるという仮説のもと、当時の受験者に調査に協力してもらい、相関関係の実証も行っています。調査の結果「聞く」→「話す」能力、「読む」→「書く」の能力に、いずれも0.83という有意な相関関係が出ました。TOEICが、品質に厳しい日本企業から普及したのは、なんといっても信頼性の高いデータが得られたです。その後、大学や高校へ、そして広く一般に広がって行ったわけです。

最近、TOEICテストが急速に普及してきたら、おかしな現象が見られるようになってきました。英語4技能を使う経験やトレーニングがないままTOEICテスト受験のためだけの「対策」を研究し、「TOEIC満点」を目指す受験者や、それを煽る専門家や出版物が増えてきたのです。そのことを、ETSで2代目のTOEICプログラムディレクターを務めたSteven A. Stupakさんに話すと、「韓国では、日本より先にそういう現象が起きた。スコアは追いかけるが、コミュニケーション能力の強化はしない人が増えてきた」と嘆いていました。
私は、「Skirt Chasers(女の尻を追いかける人)という表現に引っ掛けて、Score Chasersですね」と話したら、「その通り!困ったものです」という返事が返ってきました。

Q:TOEIC990点をとればいいというわけではないのですね。

TOEICの生みの親である北岡さんは、「コミュニケーション力とは、友達を作る力」だと言っていました。日本人が英語でコミュニケーションができるようになり、世界中に友達を作ることを目指してTOEICが生まれたのに、人とコミュニケーションをとらずTOEICの参考書だけが友達・・・という状況では本末転倒です。「990点?So what?(だから何?)」です。英語を使ってコミュニケーションをとり、ビジネスや友達を作ることに役立てなければ何の意味もありません。TOEICのスコアだけを追いかけているうちに、スコアは取れるのに英語が使えないという「新たな英語難民」=「TOEIC難民」が急増しているように思えるのです。その人たちの共通点の一つは、あまたある学習指南書やアドバイスの中で、どれをやれば実際に英語が使えるようになるかわからないという状況に陥っていることです。

英語を使えるようになるためには誰の話を聞けばいい?

Q:英語学習情報があふれていて、誰の話を聞けばいいのかわからないという声がありますね。

この記事をご覧になっている皆さんの中に「会社・学校でTOEICを受験したら350点前後(TOEIC団体受験の最多得点層)だった。仕事で英語を使わなくてはいけないし、昇格のためのTOEICスコア要件もある。書店に行けば参考書は山のようにあるが、何がいいのかわからない。いったいどうすればいいんだ?」という方がいらっしゃるかもしれません。

「誰の言うことを信じればいいのか?」と迷っている方には、通訳を経験されている方が執筆された書籍をおすすめします。とくに「音読」を推奨する先生の著書であれば大丈夫です。音読の重要性を言い続けてきた故・國弘正雄先生は、アポロ11号の月面着陸を伝えるテレビ中継で同時通訳(1969年)をされ、「同時通訳の神様」とも称されました。國弘先生は40年以上も前から音読を推奨しており、ご自身も中学の教科書を500回音読したとおっしゃっていました。音読の重要性は、私もその主張を引き継いでいきたいと思っています。
インターネットの急速な普及により英語学習のインフラは想像を超えて進化していますが、音読という一見原始的な訓練は、今でも英語トレーニングの基本として生き続けています。

私は、「声を出さない英語学習や音読をしない英語学習は無意味!」と言い切っています。英語という世界とつながることができるツールも、実際に使わなければ宝の持ち腐れになってしまいます。どんなトレーニングを行うにしても、それが「使える」英語に近づくようにしたいものです。その第一歩が「音読」なのです。今まで音読せずに英語に取り組んできた方には、まずは音読から始めることをおすすめします。

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