東大生だって英語はできなかった!? 全学で導入された英語教育改革プログラムの全貌/東京大学 工学系研究科 森村准教授

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東大生ともなれば、さぞかし英語もできるはず! と思いきや、工学部の准教授ながら全学の英語教育プラグラム「スペシャル・イングリッシュ・レッスン」の運営に携わる森村久美子先生によると、10年前は外国人にHello.と言われただけでフリーズしてしまう学生も少なくなかったという。そんな東大生の英語をアップさせたプログラムの内容や工学部独自の取り組み、そして森村先生の英語ヒストリーなどを、じっくり語ってもらった。

理系も英語が必要な時代に

Q:森村先生が東大の工学系研究科で教えられるようになったのは?

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2006年からです。直前まで大学院で工学系の研究室にいました。音響工学が専門だったんです。さらにその前には7年ほどアメリカに暮らしていた時期もありました。2000年以降、東大の工学部でも海外に発信していかなければという気運は高まっていたので、海外在住経験があり、工学系のバックグランドを持っている人材を工学系が探していたんです。私が博士号を取って修了する時期とタイミングがうまく重なったので求人に応募したところ、採用されました。

工学系の学生は、論文を書いて出版したり、国際学会で発表したりといったことを求められます。そういった分野を伸ばしていきたいという意向が工学系にあったんです。実際私も工学系で研究をしていましたので、英語で書いたり発表したりはよく経験しました。研究室の後輩の英語の発表の指導も担当しましたね。そんな経験に基づいて教えてほしいとの要請でした。当時工学系でモデルとなるような英語教育プログラムはまだなかったので、試行錯誤しながら道を切り開いてきました。

Q:一昔前に比べると、工学系の学生や研究者が英語で論文を書き、学会で英語の発表をする頻度が増えているということでしょうか?

はい。意識的に頻度を上げようともしています。必須のことですからね。というのも、日本語だけでは海外に発信する能力が低くなってしまうのです。日本語での発表ですとリーチできるのは1億数千万人。それが英語だとネイティブスピーカー+第二外国語として使っている人、そして外国語として学習している人を含めると、世界で約15億人がコミュニケーション手段として使用しているんです。となれば、やはり英語で出版、発表していくべきということで、私たちも力を入れているんです。

Q:英語で発信すれば、キャッチしてもらえる受け皿が一気に増えるということですね。「工学系の英語の特徴」は何かあるのでしょうか?

工学系の場合は、日本独自の文化を説明することはほぼありません。むしろ海外とも共通していることが多い。研究はさまざまでも、 単に英語に変えるだけである程度通じる。これが文化研究だと、多くの複雑な概念を一から説明しなければならなかったりしますよね。ですから工学系、理系というのは、世界に展開していきやすい分野だと思っています。

東大オリジナルの英会話レッスンとは?

Q:東大の工学系の学生の英語力を高めるため、実際にどんな取り組みを?

スペシャル・イングリッシュ・レッスン(SEL)というプログラムを2005年から導入しました。簡単に言えば、学外から英会話学校に本郷キャンパスの工学部に来てもらい、英会話のクラスを実施してもらうというプログラムでした。2010年には全学部での展開がされるようになりました。工学部でやってきたことが全学的に使えるという判断を受けたんですね。

私はそのマネージメントに開始当初からあたっていました。当時はまだ珍しい形態で、前例がほとんどありませんでした。「教育のアウトソーシングではないか!」と批判的な声もかなりあったんですよ。ですが、「大学側で管理をするので完全なアウトソーシングではない」と導入に踏み切ったわけです。今も私は全クラスを見て歩いています。英会話学校は現在7社に入ってもらっているんですが、全社と密に連絡を取りながら、あくまで「東大の(工学部系の)学生のためにカスタマイズされたクラス」を提供しているわけです。クラスの質を保つだけでなく、上げるためにも努力を続けました。

Q:東大生向け、または工学系の学生向けということで、一般の英会話クラスとは違う特色があるのですか?

まずコースは、英会話とTOEFLの二つがあります。TOEFLなど試験向けのコースは、従来得点を上げることに目的が置かれていました。しかし、われわれは点数を上げることだけを目的にするのではなく、4技能すべてを上げるアプローチでやってほしいと英会話学校にお願いしています。

また、英会話クラスでは、理系のトピックに特化したクラスを作ったこともあります。全学展開になってからは、さまざまなバックグランドの学生が受けるようになったので、多様性をもっと意識したトピックや、ネゴシエーションのクラス設けたりするようになりました。さらに、超上級、発展上級というハイレベルなクラスも用意しました。「普通の英会話はもうできるので英語で議論がしたい」といった学生向けのクラスですね。

少人数の学内レッスンにはスリッパで参上する学生も!

Q:クラスのレベルはいくつぐらいあるのですか?

各社によってばらつきがありますが、5〜7段階ほどです。1クラスは6〜10名です。10名以上になれば別のクラスを作ってもらっています。

Q:現在はTOEFL向けクラスに2社、英会話クラス向けに5社の英会話学校がレッスンを提供しているそうですが、複数校を使う理由は?

1つには国立大学なので、1企業が独占するのは好ましくないというのがあります。また複数社あることで、 「もっと生徒を獲得するためよりよいクラスにしなければ」という競争意識が生まれる利点もあります。

Q:SELの対象は何年生ですか?

最初は3、4年生のみでした。以前は、工学部で3、4年になると英語教育がぷっつり途絶えてしまっていたからです。1、2年は教養課程として英語の授業があったんですが、3年以降は専門科目のみでした。力学や製図、実験の授業などがびっしり詰まっていて、「英語なんかに時間は割けない」という感じで。そこを外部からキャンパスに来てもらって、6時半以降の夜間でレッスンを行っていたんです。今は全学何年生でも、問わず受講可能です。院生も受けられます。工学部は実験室から実験着とスリッパで受けにくる学生もいます。どこか別の場所に出向く負担がなく、比較的低価格で気軽に受講できるため人気があります。

Q:任意のプログラムですよね?

はい。2セメスター制で4月と10月に説明会が開かれます。全部の英会話学校が来て、クラスの趣旨や方針、担当の先生の紹介、開講曜日などをアピールするんです。それを聞いて学生が自分でクラスを選びます。

Q:各校によって内容は違うんですか?

違います。時間数も異なりますし。週に2回で一気に40回、または週に1回で気長にというのもある。留学前の学生であれば一気に伸ばそうと週2回が選べる。週1回を英語漬けにしたければ、午後4時から8時まで続けて4時間のクラスを受けることも可能。ニーズに合ったクラス選びができるんです。

Q:1セメスターの受講者数は?

前期は300名近く。後期は卒論や修論があって減るのですが、それでも200名近くいます。

Q:最初からそんなに大勢だったんですか?

いえ、1年目は50人からのスタートでした。細々と3、4クラスでやっていました。だんだん人気が出てきて、今では20〜30クラス開いています。

開始当初はHello.に返答できない学生も!

Q:SELで東大生の英語力は上がっていますか?

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はい。以前とは比べものにならないほど上がっています。先生は全員英語ネイティブにお願いしているのですが、スタートしたころは彼らにHello.と言われただけなのに、無言で立ち尽くす学生が多かった。基本的な挨拶の返しもすんなり出てこない状態で……。もちろん入試を突破して来ているので、それなりの知識はあるんです。TOEIC900点持っている学生もいましたし。でも英語が、すぐ口をついて出てこないという傾向が顕著でした。それが今は、SELだけでなく、オンラインの英会話レッスンなど、身近な英会話教材が周囲に増え続けているおかげもあって、 スタート地点からして違います。簡単な自己紹介であれば中級のクラスでも最初からできます。

Q:入試に向けての勉強は、インプットばかりでアウトプットがほぼありません。だから話すのが不得意という学生が多いのでしょうね?

その通りです。読むことには自信がある。センター試験にリスニングも少しあるので、聞くことも少しはできる。アウトプットは教えるのも難しいので、これまで中学高校では教えてこられなかった。でも、社会に出て必要になるのはアウトプット。大学生のうちにどんどんやっていくべきです。

Q:TOEFLスコアなど、東大生の英語力が点数でアップしたというデータはありますか?

SELでは、開始前と終了後にTOEFLテストiBTを全員が受けることになっています。開始前は、全体の平均は67〜80点あたりです。それが終了後は大体10点ほど、伸びが大きい学生だと20点上がることもあります。学習していなかったスピーキングやライティングの伸びが特に大きいですね。

また開講当初は、東大の大学院入試にはある一定のTOEFLスコアがあれば英語科目が免除されるため、TOEFLを受ける学生が多かった。でも今ではTOEFL受験の主な目的は留学です。

先生が気の抜けないレッスンを継続する理由

Q:SELのレッスン内容の売りは?

何と言ってもレッスンの質の高さでしょう。私とスタッフ、そして学生のTAが代わる代わるレッスンを覗きにいきますから、教える先生もまったく手を抜けない状態です(笑)。 常に緊張感がありますね。セメスターごとに毎回学生にアンケートも取っています。レッスンの速度、費用対効果、雰囲気、自分の英語力の伸びの実感などを聞いています。アンケート結果を基に、各校とミーティングをしてフィードバックを行い、レッスンの改善をしてもらっています。

Q:アンケートで改善された点とは?

「先生がしゃべりすぎで自分たちが話す時間がない」という声で配分が変わったり、「ペアワークが多く日本人同士ばかりと話すのがつまらない」という声で先生対生徒の会話が増えたりしました。それと、英語ネイティブでも、日本に暮らしている期間が長い先生は授業で日本語をつい使ってしまいがちなので、「一切交えないように」と伝えています。

変わった点といえば、各セメスターの最終週には、成果発表会を開催するようになりました。以前は10週間のレッスンが終わると自然に解散していたんですが、何かできるのではと2009年から始めたものです。クイズ、劇、プレゼン、モノローグの披露など、各クラスがそれぞれ趣向を凝らして学んだことを披露する場になっています。300人ほど入る講堂を使うんです。大きな会場で緊張しつつも英語を使って何かをやり遂げたという達成感は、大きな自信になります。「ここでできたのだから、人前で英語を今後使うことになっても大丈夫」という前向きな気持ちになれるんです。

ゲーミフィケーションを取り入れたEラーニングシステムも

Q:工学部ではSEL以外にも何か取り組んでいる英語教育のプログラムは?

SNOWBALLS(Self Navigation Web Based Literacy Learning System:自主学習WEBベース国際教育ITシステム)というEラーニングシステムを作っています。工学系の単語、英語はこれで自学自習できるようになっています。ゲーミフィケーションを取り入れていて、問題を解くのを競い合ったりもできます。一番正解が多かった回答者は賞品としてもらったスノーボール(雪玉)を使って、システム内でショッピングできたり、自分のアバターの好きなヘアスタイルを選べたりできるんです。実名ではなくアバターを利用するので、ガンガン勉強しているのを周囲に知られたくない学生も安心して使えます。リアルタイムのオンラインゲームで問題を解くことも可能です。

先日出席したニューオリンズの学会でもこのSNOWBALLSについて発表してきたんですが、「面白い」「すごい」と大評判でした。ただ、外国人にはめっぽう受けがいいのに、東大では「ちょっと軽すぎじゃ?」という反応もあったりするんです(笑い)。内容はしっかりしたもので自信があるのですが……。

Q:若い世代にはゲーム感覚で学べるSNOWBALLSは人気が高いのでは?

そうですね。私が教えているアカデミックライティングの副教材としても使っていて、受講している学生には必ず使うように言っています。実際利用率も高いですし。ただし今のところは工学部だけのものなので、今後は全学展開できるような改良もできればいいなと思っています。

MITのアニメオタクとランゲージエクスチェンジ!?

Q:工学部の学生が利用できるスカイプ英会話もあるそうですね?

はい。Language Exchange: M-Skypeスカイプです。MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生を相手にスカイプでコミュニケーションを図るものです。MITの学生の中には日本語を学びたい人が多いんですよ。日本の文化、特にアニメやマンガはすごく人気ですから。既にotakuと英語になっているくらいで、マンガ、アニメ好きな人は自分のことを堂々とotakuって呼ぶくらい。彼らは、英語では手に入らないマンガをもっと読むために日本語を知りたがっている。日本語講座のクラスも人気だそうです。そんなMITの学生に東大の学生が日本語を教えながら、向こうから英語を教わるわけです。相手に教えるだけだと、返答の待ち時間や間違いの多さにイラッとしてストレスになりがち。でも、お互いに代わる代わる教え合う、ランゲージエクスチェンジだと負担を感じにくい。win winのシチュエーションだと思っています。

Q:いつでも利用できるんですか?

いえ、これはクラスとして行っているんです。相手を設定しないとできないので、決められた時間内でやるんです。

国際会議には1人で参加すべし!

Q:森村先生はどうやって英語を?

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私は中学、高校がアメリカ人の宣教師が創立したミッションスクールだったので、アメリカ人の先生に英語を習うことができました。発音記号も全部習って、まず発音から入りました。日本語を一切使わない授業が中学3年間続きました。文法は高校に入ってからという感じでした。英語は大好きだったので、中高ではよく勉強しましたね。今思えば世間知らずでしたが、中高の6年間で「英語はもう一通り学んだ」と考え、大学では違うことをしようと心理学を学びました。その後結婚し、夫の仕事の関係でアメリカに7年間行きました。いわゆる主婦として過ごしました。子供の学校のPTAをして、アメリカのお母さんたちとの付き合いも密にありました。英語に不自由している日本人のお母さんの学校懇談会に付いていって通訳したり。いろんなコミュニケーションを楽しむことができました。

Q:日本人は国際会議などで発言が極端に少ないなどとよく言われます。どうお考えですか?

つい最近出席した国際会議は、日本人は私1人。ですから、ほかの国の人とすぐに話すことができました。でも日本人が参加する場合は、グループが大半です。こうなると、会議もごはんもお茶するのもすべて日本人グループとばかり。全然英語を使わない。ほかの国の人とのコミュニケーションが生まれない。意識的に1人で参加して、いろんな国の人と話すのは大事ですね。

また、東大にやってくる留学生を見ていて感心するのは、さほど英語が上手でなくても、自分の言いたいことを懸命に伝えようとする姿です。日本人の場合はまず、発音がいいとか、流暢かということをすごく気にします。うまくない人はしゃべっちゃダメという雰囲気さえある。そんなふうに萎縮せず、一生懸命伝えようとトライする姿勢が大切なんだと思います。

Q:忙しい東大生の中で、英語力が伸びている人に何か共通点はありますか?

Eラーニングシステムなど、こちらが何か少し提供すると、自分たちでどんどんのめり込んでやりますね。やる気のある学生は、上手になりたいという気持ちが強いですし、上達具合も早いです。レアジョブ英会話を数百時間やってTOEIC満点になったという学生も最近いましたよ。彼は留学経験がまったくありませんでした。Mスカイプもやっていましたし、スカイプ形態のオンラインレッスンだけでも、そこまで行けるということでしょう。

Q:東大生の英語の改革について、今後の目標は?

外国人と英語で話すことにもっと慣れていって、抵抗がなくなるようになればいいと思っています。英語を使ってわかりあえるようになるのが最終的な目標です。

Q:最後に好きな英語のフレーズを教えてください。

Where there is a will, there is a way.(意志あるところに道あり)です。自分のこれまでを振り返っても、この言葉を信じて突き進んできました。今後も大事にしていきたい言葉です。

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